<ジェフ・ペシェット>
 1954年、アメリカ東海岸のメリーランド州バルティモア生まれ。9歳からギターを始め、同時に作曲もスタート。最初はビートルズ、その後も、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリン、イエスなど、英国ロック系から大きな影響を受けるが、10代中盤でクラブに出演するようになってから、スティーヴィー・ワンダーにも大きく刺激され、週に6日、地元のクラブに出演。出来る限りオリジナル・アーティストに近い歌い方を試み、様々なヴォーカル・スタイルを身に付けていく。

 そんな彼に転機が訪れたのが1982年。ロバート・バーン、ノーマン・サリート他、数多くの作曲家/ヴォーカリストを 生み出しているコンテスト「American Song Festival」で"Best R&B Song"を受賞するところからスタートする。 ジェフは翌83年にも同フェスティヴァルに応募、今度は"Best Male Vocal"に輝いているが、82年の受賞曲 <Just Like You>が彼の人生を大きく変えるのだった。この曲は83年のスモーキー・ロビンソンを皮切りに84年のデニス・エドワーズ、マリリン・マックー、86年のマンハッタンズ、88年のジョニー・マティス他、数多くのR&B系シンガーがレコーディング。早くもスタンダード化しているが、この曲を耳にしたクインシー・ジョーンズがジェフに大きな興味を抱く。「American Song Festival」は、受賞者を対象にしたパーティーをLAで行い、ジェフもそこに招待されるが、そのパーティーでクインシーがジェフに作家契約を申し出、もちろん、ジェフもそれを受諾。最初の1年は地元バルティモアをベースに作家活動を続けるがクインシーの勧めで1985年、LAに移住。1986年にギャヴィン・クリストファーに提供した<One Step Closer To You>が全米22位まで上昇。その後もカール・アンダーソン、ポインター・シスターズ、ケニー・ロギンス、ジョージ・ベンソン、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、ロビー・ネヴィル、アル・ジャロウ、スピナーズ、ジャーメイン・ジャクソン他、数多くのアーティストに曲を提供。各種チャートを上昇し、LAの音楽シーンでその名を広めていく。

 1990年代に入ってもジェフの作品に対する需要は高く、デヴィッド・パックと共作した<Through The Test Of Time>をパティ・オースティンが歌い、これがAC=Adult Contemporaryチャートで最高9位を記録。他にもスモーキー・ロビンソン、アリーシャ、オズモンド・ボーイズ、Ms.アドヴェンチャーズ等が彼の作品をレコーディングするが、1990年、ジェフ・ペシェットはある1枚の作品にヴォーカリストとして参加し、特にAORファンから注目を集めることになる。そのアルバムとは、デヴィッド・フォスターの「River Of Love」。ウォーレン・ウィービー、はたまた、ナタリー・コールの名唱が詰まったこの作品は実はジェフ・ペシェットの実力を知らしめる貴重な作品でもあった。ジェフはそのアルバムで3曲のリード・ヴォーカルを務め、うちの1曲<One Step Closer>では、共作者としてのクレジットも見つけられる。その後もデヴィッド・フォスターとはとても良い関係を保ち、彼がプロデュースを手掛ける作品---セリーヌ・ディオン、ライオネル・リッチーからモニカ、ブリトニー・スピアーズまで---いろいろなアルバムで、バック・ヴォーカルを担当。コンポーザーとしてだけではなく、ヴォーカリストとしての地位も確実に築き上げていく。

 ジェフの歌声はその他にもいろいろなところで聴くことが出来る。スムース・ジャズ界の人気キーボード奏者ジェフ・ローバーとの親交も深いジェフ・ペシェットは、ジェフ・ローバーがプロデュースを手掛けたエリック・マリエンサルのアルバムに共作、リード・ヴォーカリストとして参加。また、クレジットこそされていないが、ディズニーのアニメからいろいろなコマーシャル・ソングまで、数多くを歌っている。そして、名前の出ないリード・ヴォーカルとしての極めつけは、90年にリリースされた某5人組少年バンドの“トラ”ヴォーカル。TV番組から誕生したそのグループは誰もまともに歌うことが出来ず、結局はデモを歌ったジェフ・ペシェットが本テイクでも歌うことに。かつてのミリ・ヴァニリを思わせるこの事件は、シングルが全米42位まで上がるヒットを記録、という、オチまで生み出している。

 そんなジェフ・ペシェットをクール・サウンドに紹介してくれたのは彼とは同郷の人気シンガー:トニー・シュート。 トニーを通じて渡された全20曲の音源からAORファンを意識した12曲をセレクトし、1枚のアルバムとしてパッケージ。その中でもジェフが特に思い入れの深いナンバー<Soul Reason>をアルバム・タイトルにし、11月10日、待望の日本リリースが実現する。