私、中田がこれまでにやった数知れぬインタヴューから、毎年数本、
ほとんどノーカットで紹介していくこのコーナー。
第54回は、2000年に行った、デヴィッド・ラズリーさんへのインタヴューから
ご紹介いたします。



COOL Interview Vol.54 〜 デヴィッド・ラズリー 〜


−−ポニー・キャニオンとはどんな経緯で契約を?

DL:プロデューサーのジェフリー・ウェバーの紹介だよ。彼と初めて会ったのは....1987年くらいだったかな....彼はデヴィッド・ベノワのプロデュースもしていただろ、確か。それで知り合ったんだ。もともてゃポニー・キャニオンではなく、CBSマスター・ワークス?に話しを持っていったんだ。けれど、大した予算が取れなかったので他を捜したんだ。

−−こういうアルバム、すなわちカヴァーを多く入れる、というのは誰のアイデアだったんですか?

DL:基本的には僕自身のアイデアさ。<You Bring Me Joy>とか僕の曲も入っているけれど他人の曲の方が多いんだ、ジャズのスタンダードだったり。もともとこういう曲はライヴで歌っていて、お客さんから「レコードにして欲しい」というリクエストをよくもらっていたから、ちょうど良い機会だったんだ。

−−<It's Too Late>は今作のハイライト? このイントロは貴方のアイデア?

DL:僕とデヴィッド・ベノワの2人だよ。彼と一緒にこの曲のアレンジをして、<It's Too Late>と<Will You Love Me Tomorrow>の2曲をイントロ部分で繋いでみたんだ。ストリングスの譜面を彼が書いて。メロディーを前面に出すと言うより、よりスロウ・テンポで語り調っぽく、ボヘミアンな感じにしたかった。仕上がりにはとても満足しているよ。

−−キャロル・キングの思い出と言いますと....?

DL:ありすぎるくらいだよ。「つづれおり」が素晴らしいのは言うまでもないけれど、それ以前、彼女がガールズ・グループに曲を書いていた頃から大好きだったよ。シュレルズの<Will You Still Love Me Tomorrow>とか、本当に素晴らしい曲をたくさん書いているだろ。

−−彼女との交流は?

DL:いいや、ほとんどないよ。ジェイムス・テイラーのステージで<You've Got A Friend>を共演した時だけだよ。娘のルイーズ・ゴフィンのことはよく知っていたよ。彼女とは以前、同じアパートに住んでいたんだ。

−−本当ですか!

DL:ああ。

−−彼女は今何をしているんですか?

DL:ここ何年も会っていないからよく解らないけれど、確か、イギリスに移って、そっちで暮らしているんじゃないかな?

−−もうレコードは作っていないんでしょうか?

DL:ちょっと解らないけれど....初期の2枚のアルバムはダニー・コーチマーがプロデュースをしていて、2枚とも僕はバック・ヴォーカルで参加したんだ。その後、イギリスに移ってとても美しいレコードを出した、「This Is The Place」という。<Bridge Of Sighs>は中でも秀逸で、僕もよくライヴで歌ったよ。

−−さて、このアルバムではアレサ・フランクリンの曲も取り上げていますが、何故、数あるアレサの中から特に有名ではないと思われる<Without The One You Love>を選んだんですか?

DL:コンサートでよく歌っていたんだ。確かに有名な曲ではない。僕は「Missin' Twenty Grand」でアレサのレパートリー<Take A Look>をカヴァーしているだろ。それに続くアレサ・チューンだよ。(<Without The One You Love>は)65年の「Take A Look」に入っていたんだと思う(※実際は1962年の「The Tender, The Moving, The Swinging Aretha Franklin」他に収録」)。彼女が18歳の時に書いた曲らしいよ。

−−<Roslyn>は誰の歌?

DL:アメリカの白人女性、ボニー・コーラック(Koloc)のナンバーとして覚えたんだ。シカゴ・ブルースのシンガーなんだ。いつもこの曲が大好きで、あと、母親も大好きだったんだ、この曲を。

−−<Since I Fell For You>はスタンダードだと思いますが、誰のヴァージョンを参考にしました? 或いは影響を受けました?

DL:オリジナルだよ、レニー・ウェルチの(※オリジナルは1948年ですが....)。1963年に大ヒットしたんだ。大好きな曲だよ。それ以来、僕の最も好きなレコードの1枚になっている。今でもなお。僕は全体的に女性シンガーの方が好きだけれど、この曲は男性だよ。

−−<God Bless The Child>はもちろんビリー・ホリディ?

DL:ああ。でも、アレサも歌っているんだ。そっちからも影響されたよ。「Take 〜」に入っているんじゃないかな(※実際は<Without The One You Love>同様、1962年の「The Tender, The Moving, The Swinging Aretha Franklin」他に収録」)。アレサの影響はかなり大きいよ、とりわけ初期の彼女からの影響が。

−−ランディ・ニューマンの曲も取り上げていますが、貴方にとって彼はどんなアーティストですか?

DL:う〜ん、素晴らしいライターでエキセントリックなアーティストだよ。悲しい歌に美学があって。会ったことはないんだ。だから、僕のヴァージョンを聴いてどんな感想を持ったかは解らない。(僕の大好きな)ダスティ・スプリングフィールドもランディの曲をたくさん歌っているよ。

−−<Give My Heart Back To You>はどうやって見つけたんですか。

DL:その曲はギターのマーティー・ウォルシュが友人と書いたもので、僕はデモを歌うのを頼まれたんだ。それでとても良い曲だと思ったんで「実は今、「Soldiers〜」に入れる曲を捜しているんだけれど、この曲だったら絶対にプロデューサーも気に入る」って言ったんだ。するとマーティーがリタ・クーリッジとのデュエットを薦めてくれたんだ。

−−<Warm As The Wind>は以前誰かレコーディングしているんですか?

DL:ドン・ヨウェルの曲だね、いいや、誰もレコーディングしていない。僕のが最初だよ。彼は本当に美しい曲を書くライターだった。僕の「Demos」に入っている<Smalltown Change>やフィービー・スノウの<Mr.Wondering>、リア・カンケルの<I Run With Trouble>など、本当に素晴らしい曲を書いている。1984年だったかに他界してしまったけれど、彼の兄弟ダグ・ヨウェルはドラマーだし、とても音楽的なファミリーだったよ。

−−書いたのが82年、そして、今回初めてレコーディングされた、というわけですね。

DL:う〜ん、書いたのはもっと前だと思う。77年頃じゃないかな? 皆、この曲が大好きでレコーディングしたがっているんだ。

−−Digitally Recorded Live To Two Tracks With No Mixing, Editing Or Overdubbing、というクレジットがありますよね。シンガーとしては、かなりのプレッシャーが?

DL:うん。とても難しいレコーディングだった。

−−テイクはどれくらいで?

DL:<Warm As The Wind>は2テイク、<It's Too Late>も2テイク、<Soldiers On The Moon>が3テイク....

−−一番大変だったのは?

DL:今回ボーナス・トラックとして初収録される<This Is Real>、これが一番大変だった。とても美しい曲なんだけれど、満足のいく完成品にならなかったから、アルバムから外していたんだ。あとは<Soldiers On The Moon>も難しかった、コード・チェンジとかいろいろ。一番親しんで出来たのは<Since I Fell For You>と<God Bless The Child>の2曲だね。と言うのも、この2曲はデヴィッド・ベノワと一緒にクラブで歌っていたから、とても楽だった。<It's Too Late>はストリングも一緒だったから、その辺りがちょっと大変だった。あと、<Audrey>も少し難しかった。と言うのもこの曲は、レコーディングの2日前に歌詞が出来上がったばかりだったから、とても新鮮な気持ちで曲に向かうことが出来た。バンドのメンバーはまさか2日前に出来たばかりだとは全然思わなかったんだけれど。

−−レコーディングの前のリハーサルはどれくらい時間をかけたんですか?

DL:ゼロだよ。

−−え〜!!! 本当に!

DL:ああ。全くリハ無しだよ。

−−信じられない。

DL:皆がスタジオにやってきて、譜面を見て、それでレコーディングだよ。デヴィッド・ベノワはあの頃とても忙しくて僕のこのレコーディングのために前もっては1日しか割けなかった。それで、ピアノとマイクロフォンでどんなアレンジにするかだけを決めて、それで彼がストリングスの譜面を書いてくれたんだけれど、バンドで前もってとか、ヴォーカルのリハーサルを、というのは全く無かった。だからたいへんなレコーディングだったんだ。

−−レコーディングは何日かけたんですか?

DL:3日、いや、正確には3晩だよ。夕方6時にスタートして午前1時まで。確か、5月24(水)、25(木)、26(金)日の3日間だよ。

−−もの凄い記憶力ですね。ドラムスはジェフ・ポーカロですね。

DL:ああ。そして、ルイス・コンテがパーカッション。

−−ジェフに関して何か、特に思い出は?

DL:とても楽しく、とても好い人だった。僕のヴォーカルにとても協力的で。それ以前もボズ・スキャッグスの「ミドル・マン」だったりいろいろな所で共演しているけれど、僕自身のレコードに彼が参加してくれたのはこれが初めてだった。彼がプレイしているところを見るのがとても楽しかった。曲によっては彼を見ながらだったから、上手くできたものもあるし。本当に素晴らしい人だった。

−−レコーディング中の何か面白いエピソード等は?

DL:結構、しっちゃかめっちゃかになって気が狂いそうなこともあったよ。楽譜がどこかになくなったりで。あとは、コーラス隊が来るのを待っていたり、なんてこともあったよ。ルーサー・ヴァンドロスがサン・ディエゴから来るのを待っていたり。ヴォーカル隊もリハーサル無しだから大変だったよ。ミュージシャンはとても忍耐強かったと思うし、エンジニアのアラン・サイズも本当にタフな仕事をしてくれた。ジェフリー・ウエバーは、まあまあだったかな。それより僕の姉のジュリーがこのレコードの制作に大きく貢献したと思う。プロダクション・コーディネイターが彼女の役割だったんだけれど、いろいろと彼女の意見を参考にしたし、技術屋が多く集まったレコーディングだからこそ彼女のような一般的な人間の意見がとても重要だったんだ。でも本当に良い出来で嬉しかったよ。歌っている時は、その出来が今いちよく解らないんだ。それで、歌い終わってコントロール・ルームで聴いてみて、ワォッ!素晴らしい、ってようやく自信が持てたんだ。

−−他に何かユニークなエピソードはありますか?

DL:<You Bring Me Joy>はもともと、リタ・クーリッジとデュエットするつもりだったんだ。で、実際にレコーディングしたんだけれど、上手く行かなかったからやめたんだ。ちなみに、その夜、リタは車を盗まれてしまったんだ。後で解ったんだけれど。

−−ボーナス・トラックに関して簡単な説明をお願いします。

DL:まずは<Soldiers On The Moon>(Low Vocal Version)、<It's Too Late>(small strings version?)、<It's Too Late>(outtakes)、<Warm As The Wind>(Strings Version?)、<Warm As The Wind>(Alternate Version)、<Without The One You Love>(Alternate Version)、<This Is Real>(Take 5)、<Audrey>。これで22分間くらいかな。

−−日本盤カヴァーに写るドーナッツ盤は?

DL:あれは確か、EMIからのシングル<It's A Cryin' Shame>のEPだよ。全然売れなかった。

−−最新ニュースをいくつか教えて下さい。

DL:「Back To Blue Eyed Soul」というタイトルの古い作品集が出るんだ。ユートピアズのナンバーからソロから。そして、ロージーからも1曲入るよ。もう2〜3週間後かな? それから「David Lasley Sings Laura Nyro」というアルバムも計画中だよ。時間が掛かっているけれどぜひやりたいんだ。

−−どうもありがとうございました。





 次回は、お待たせしました、トム・ケリーさんへのインタヴュー(2006年10月)をご紹介。1月中には更新する予定ですので、どうぞお楽しみに!!